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人事労務のQ & A

採用

内定者に対して入社前研修の参加を強制することはできますか?

当社では毎年、新規学卒内定者に対して入社前研修を実施しています。今回、ある内定者が私用を理由にして研修不参加の連絡をしてきました。
このような内定者に対して、入社前研修の参加を強制することはできるのでしょうか。

内定とは会社側からみると「実際に労働を開始する日を当事者間で合意された日とし、それまでの間に内定通知書等に記載された内定取消事由に該当する場合は内定を解約できる状態(解雇権留保付就労始期付労働契約)」ということができます。つまり、働いてもらう権利はすでに確保されているものの、その権利を行使できる日がいまだ到来していない状態ともいえます。

参加を強制する研修は、通達や判例(昭26.1.20 基収2875、平11.3.31 基発168)において、その参加時間は労働基準法上の『労働時間』として扱われる可能性が高くなります。
かたや、前述のとおり、内定段階では会社は内定者に対して働いてもらう権利を行使できない(労働させることができない)ため、研修参加を強制することはできない、といえます。

労働時間

半日年休を取得した日の時間外労働はどう対応したらいいのでしょうか?

当社は8時~17時(正午より休憩1時間)を始業終業時刻としています。このたび午前中に半日年休(4時間)を取得し、午後から出社して定時後に残業した従業員がいます。
やはり、定時後の残業については、時間外労働として割増賃金を支払う必要があるのでしょうか。

年次有給休暇を取得した時間は、賃金は支払われるものの労働は免除された時間ですので、労働時間として扱う必要はありません。

労働基準法では1日8時間(法定労働時間)を超えて労働させた場合に割増賃金を支払う必要があるとしていますので、本件では、出社した13時から考えて8時間を超える部分から、時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。(22時~翌日5時までの深夜時間帯には深夜割増が必要ですのでご注意下さい。)

賃金・退職金

固定残業手当を適法に支払うためにはどういう要件がありますか?

当社では基本給に一定の固定残業分を含めて従業員の賃金を決定し、支給しています。
従業員には口頭で簡単に説明していましたが、ある従業員から違法ではないか、との申し出がありました。
固定残業分が含まれているので、この他には割増賃金を支払っていませんが、固定残業手当を適法に支払うためにはどういう要件があるのでしょうか。

固定残業手当を支払うこと自体は労働基準法に違法するものではありませんが、適法に運用するためには次のような要件を満たす必要があります。

  • 固定残業手当が基本給から明確に区別されていること
  • 実際の時間外労働に対する割増賃金が固定残業手当を超えている場合、その差額を支給すること

よって、本件では少なくても基本給と固定残業手当を切り離して支給する必要があります。この対応に併せて、就業規則(賃金規程)に固定残業手当の定義(何時間分の時間外労働分なのか等)を規定して、従業員代表の意見聴取の上で管轄労働基準監督署に変更届出をし、従業員に周知して下さい。

この際、これまで口頭での説明だけであったためにその趣旨が従業員に周知できていなかった場合は、事実上の不利益変更となる可能性が考えられます。このような場合には、従業員の同意が必要となるなどの労働契約法の規定に基づいて労働条件の変更を行う必要がありますのでご注意下さい。

なお、上記の考え方は年俸制における割増賃金も同様の取扱いとなりますので、年俸制を導入されている場合はご確認下さい。

懲戒解雇となった従業員の退職金を全額不支給としても問題ありませんか?

このたび、職務経歴を詐称して入社した事実が発覚した従業員を懲戒解雇することになりました。懲戒解雇ですので退職金は全額不支給にするつもりですが問題ありませんか。

まず、懲戒解雇となった従業員の退職金を全額不支給とするためには、その旨が就業規則に規定されている必要があります。しかしながら、就業規則に規定されていれば、いかなる場合でも懲戒解雇の際に退職金を全額不支給とすることができる、ということにはなりません。

退職金を全額不支給とする措置をとる場合は、それが懲戒解雇によるものだとしても、退職金の支給については、懲戒解雇処分となった行為の内容や程度、諸般の事情を総合的に考慮して慎重に判断することが求められます。判例においては「労働者の長年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為の存在が必要である」としています。(小田急電鉄事件 東京高裁 平15.12.11判決 労判867-5等)つまり、重大な刑罰に該当するようなときや、重大な故意・過失等により会社に多大な損害を与えたとき等が該当すると考えられます。

よって、本件のケースにおいては、“職務経歴の詐称”という行為から退職金を全額不支給は難しく、一部不支給が相当ではないかと判断されます。(なお、退職金の不支給や減額は、あくまでも諸般の事情等を総合的に考慮の上で個別に判断するべきですので、一概に上記の通りの対応が正しい、というわけではありません。)

異動・配置転換

転勤命令はいかなる場合でも認められるのでしょうか?

労働力の適正配置を目的として、ある従業員に転勤を命じたところ、重度の介護が必要な両親がいることを理由に転勤を拒否しました。転勤命令を出す際に、従業員の個別事情を考慮する必要があるのでしょうか。

人事施策の一環としての転勤命令は、業務上の必要性があり、就業規則等に「業務上必要な場合は転勤を命じることができる」と規定されていれば、転勤命令についての包括的合意(将来に転勤命令があった場合にはその指示に従うという事前の合意)があったものとされ、原則として従業員は転勤命令に従わなければなりません。

しかしながら、次のようなケースに該当する場合には、転勤命令は会社側の人事権の濫用とみなされ、転勤命令が無効となることがありますのでご注意下さい。

〔権利の濫用となる場合〕
  • 業務上の必要性がない
    • ※転勤に合理的な必要性があれば、「その従業員以外に対象者がいない」というような高い必要性までは求められません。
  • 不当な動機によるもの
    • ※報復人事による転勤命令や、整理解雇に伴う嫌がらせなどに該当すると認められる場合は、権利の濫用となります。
  • 雇用契約において勤務地限定特約がある
    • ※採用時に勤務地を限定する特約を締結している場合は、原則として従業員の同意を得ない限り権利の濫用となります。
  • 従業員に著しい不利益がある
    • ※従業員への不利益を理由とした判例は相当数に上りますが、その多くは転勤命令は権利の濫用にならない、と判断されています。特に、従業員の家庭の事情に対する配慮(住宅手当、別居手当、帰省旅費補助など)をしているような場合には、転勤命令の有効性は高くなる傾向がみられます。
      なお、共働き夫婦における重症のアトピー性皮膚炎の子を養育しているケースや、痴呆症状態にある親の介護が不可能となるケースなどでは、不利益が著しいとして転勤命令は権利の濫用とする判例もあります。

本件では、上記のうち「従業員に著しい不利益がある」に抵触する恐れがあるか否かを慎重に判断の上、転勤命令の有効性を検討する必要があります。また、育児介護休業法には「事業主は、労働者を転勤させようとするときには、育児や介護を行うことが困難となる労働者について、その育児又は介護の状況に配慮しなければならない」と規定していますので、これらの点を考慮すると、両親を介護できる代替者のいないような場合には、転勤命令が権利の濫用とされる可能性が高くなると言えます。

休暇制度

退職予定者から請求があれば未消化分の年次有給休暇を全て与える必要があるのでしょうか?

このたび、退職することが決まっている従業員から、未消化分の年次有給休暇の全てについて取得の請求がありました。
このような前例は作りたくないので認めたくないのですが、従業員の請求を拒否することはできるのでしょうか。

原則として、年次有給休暇の取得を制限することはできないため、従業員の請求を拒否することはできません。

なお、会社には事業の正常な運営を妨げる場合に限り、年次有給休暇を請求された日を変更する権利(時季変更権)がありますが、あくまでも「取得日を変更する権利」であって、「取得する権利を消滅させる権利」ではありません。したがって、退職予定日までの所定労働日の全てが年次有給休暇の請求日である場合は、変更する日がないことになるため、事実上は時季変更権を行使することができない、ということになります。

 上記のとおり、法令上は従業員の請求を拒否することはできない以上、業務の引継ぎなどのためどうしても出勤させたい場合などは、従業員との話し合いによって折り合い(出勤により消化できなくなる分を買い上げる、等)をつけることになります。

就労可能との診断書を提出した休職者は必ず復職を認めないといけませんか?

メンタルヘルス不調により休職していた従業員が、「就労可能」と記載された主治医の診断書を提出してきました。会社としては、本当に復職できるのかどうか心配なのですが、このような場合は復職させる必要があるのでしょうか。

復職は、原則として、休職前の職務を通常の程度に行える心身両面の健康状態まで回復し、就労可能であると判断される際に認めるものですので、主治医の診断書があるという理由だけで、直ちに復職を認めなければならない、ということにはなりません。
 主治医の診断書は復職可否おける重要な判断材料のひとつではありますが、復職後に就く職務内容などを考慮していないようなケースも見受けられるため、適正な判断を行うための手段として、次のようなことが考えられます。

  • 本人同意の上で主治医と面会して具体的な意見を聴く
  • 会社の指定医の診断をうける
  • 産業医から主治医に対して具体的な意見を聴いてもらう、など

そして、上記の内容を十分に考慮した上で、最終的な判断は会社が行います。

なお最近は、復職の前段階として、具体的な業務に就かない「リハビリ出勤(試し出勤)」制度を導入する企業も増えてきています。ちなみに、出勤はしていても業務に就かないということは“労働”という性質がないため、労災や通勤災害の補償が受けられないことになりますので、事前に本人に説明の上で同意をとっておくなど注意が必要となります。

懲戒処分

懲戒処分は必ず懲戒委員会に諮る必要がありますか?

当社の就業規則には、従業員へ懲戒処分を科すときは、社内の懲戒委員会に諮って処分内容を決定する規定がありますが、実際には懲戒委員会を開催せず、人事責任者の独断で処分を決定しています。
このような運用実態は問題はあるのでしょうか。

懲戒委員会を開催する法令上の義務はありませんが、就業規則や労働協約において懲戒委員会に諮る旨が規定されている場合は、その規定を無視して行った懲戒処分は手続きに瑕疵があるとされるため、原則として懲戒処分が無効になる可能性があります。(懲戒権の濫用)

ただし、懲戒委員会の構成メンバーである労働組合側が正当な理由なく開催を拒否するなどの特別な事情がある場合には、懲戒権の濫用には該当せず、懲戒処分が有効となるケースはあります。

また、就業規則や懲戒委員会の運営内規等において「軽微で即決することが適当と考えられる事案については、懲戒委員会への付議を省略することができる」などの規定がある場合も、この規定に該当するような事案であれば、懲戒処分は有効となるものと考えられます。(この場合でも、労働組合や従業員代表との事前協議の上で了解を得るほうが無難)

なお、懲戒委員会を開催するか否かにかかわらず、適正手続きの観点から、本人の非違行為が明白で弁明の余地がない場合などを除き、原則として本人に弁明の機会を与えた上で処分内容を決定することを推奨します。

退職・解雇

試用期間中の従業員の解雇は比較的安易に行ってもよいのですか?

当社では入社から3ヶ月間を試用期間としてます。
現在、試用期間中の従業員が、期待していた程の能力レベルではなさそうなので、解雇したいと考えています。試用期間中ということもありますので、通常の解雇よりもハードルは低いと考えてもよいのでしょうか。

試用期間とは、その期間中の勤務ぶりや能力等を観察することにより職務適性を判断するための期間、をいいます。もし適性がないと判断される場合は、本採用を拒否(解雇)することができます。

ただし、一般的に正社員の解雇よりも比較的広い裁量権が認められるとされているものの、あくまでも客観的に合理的な理由もなく、また社会通念上相当として認められないような場合は、解雇は無効であることはいうまでもありません。なお、本件については、試用期間中に能力向上を目的とした指導を行ったか否かなども解雇に合理性を与える要素となると考えられます。

いずれにせよ、「客観的な合理性」や「社会通念上相当」か否かについては、十分な検討した上で慎重に判断して下さい。

就業規則

周知されていない就業規則は効力があるのでしょうか?

当社には以前に作成した就業規則があります。この就業規則は、従業員代表への意見聴取を行い、労働基準監督署にも届け出をしていますが、今まで従業員に公開したことはありません。
このような周知されていない就業規則はそれ自体に効力があるのでしょうか。

労働者数が常時10人以上の事業所は、就業規則に関して以下のような義務があります。

  • 就業規則を作成する。
  • その内容について従業員代表の意見を聴取する。
  • 管轄労働基準監督署へ届け出る。
  • 労働者へ周知する。

上記のうちどれが重要なのかという点については見解が分かれるところですが、最高裁判例によれば「就業規則は、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られることにより、拘束力を生ずる」とされました。(最判平15.10.10判時1840・144、判タ1138・71)

つまり、従業員代表の意見を聴取して労働基準監督署に届け出ていても、労働者に周知されていない場合には、その就業規則に効力はない、ということになります。

逆に考えれば、労働者に周知されているが意見聴取や届出をしていない就業規則は有効なのか?ということになりますが、そもそも意見聴取等は労働基準法で定められた義務ですので、必ず、上記の4つの全てを実施しておくことが必要であることは言うまでもありません。

なお、就業規則の周知方法としては、できれば労働者の一人ひとりに就業規則を配布することが望ましいですが、労働者がいつでも見ることができるような場所に備え付ける等の方法であれば問題ありません。ちなみに、近頃では社内イントラネット上で公開するケースが増えてきているようです。